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介護報酬 不正請求の背景は

2015.08.07 (金)

阿部
「私たちの老後を支える介護保険制度です。」
和久田
「4月から制度の見直しで、全国のほとんどの自治体で、65歳以上が負担する介護保険料が、平均で10%余り引き上げられました。」
阿部
「その一方で、介護報酬を不正に請求する事業者が相次いでいます。
私たちが払う介護保険料が、介護サービスに使われるのではなく、不正にだまし取られているのです。」
和久田
「こちらは、不正請求などで行政処分を受けた事業者の数です。
最新のデータで、全国で216か所。
制度が始まって以来、最も多くなっています。
1年間に不正に請求された金額は12億円に上ります。」
阿部
「取材を進めていくと、不正の背景には、制度そのものがはらむ構造的な問題が見えてきました。」
介護保険制度 悪用 不正請求の実態は
NHKが独自に入手した、不正の実態が記された介護の記録です。
静岡県内の訪問介護の事業者が作成しました。
この記録をねつ造し、190万円の不正請求を行ったとして、事業所の指定を取り消されました。
その手口です。
80代の女性に対して行われた、尿を吸収するパッドの交換や体を拭くサービス。
これらのサービスは日中に行われていましたが、記録には「深夜」に行ったと記されています。
このサービス内容のねつ造により、本来の1.5倍の介護報酬が請求されていました。
こうした水増し請求は、毎日のように繰り返されていました。
さらに、架空請求も行われていました。
例えば、6月15日に行ったとされる、女性をトイレに連れて行くサービス。
2,650円の報酬が請求されています。
しかし、県が詳しく調べたところ、この日、女性は入院していて施設にはいませんでした。
介護サービスは一切行われていなかったのです。
不正は、内部告発によって県が把握するまで1年以上にわたり続けられていました。
こうした不正が起きる背景に何があるのか。
過去3年間に全国で最も多い、45の事業所に対して行政処分を行った静岡県。
処分の内容を見ていくと、本来、不正をチェックするはずのケアマネージャーが関わっているケースが少なくありませんでした。
静岡県福祉指導課 黒岩康参事
「ケアマネージャーは介護サービス利用の要。
そういったもの(不正への関与)があると、制度の根幹、揺るがす。」
不正請求にケアマネージャーがどのように関わっていたのか。
介護保険制度の仕組みです。
ケアマネージャーが利用者からの依頼でケアプランを作り、それをもとに事業者から、利用者に介護サービスが提供されます。
ケアマネージャーはその内容をチェックし、市町村へ報告。
その後、市町村から介護報酬が支払われます。
不正が起きないよう、ケアマネージャーには公正中立な立場が求められているのです。
しかし、不正が行われたケースでは、ケアマネージャーがねつ造された報告を見逃すよう指示され、不正請求に関与させられていました。
なぜケアマネージャーは本来のチェック機能を果たすことができないのか。
最近施設を辞めた、あるケアマネージャーです。
介護報酬を増やすため、有料老人ホームの利用者に不必要なサービスを盛り込むよう経営者に強制されたことがあると言います。
施設を辞めたケアマネージャー
「言うことを聞けと責められた。
できることをできないこととし、(無用なサービスの)請求している。」
公正中立であるべきケアマネージャー。
実はそのおよそ9割がサービス事業者と同じ経営者に雇われています。
独立して自ら利用者を獲得するよりも、大きな事業所に雇用されたほうが安定した収入を得られるからです。
そのため、経営者から不正を持ちかけられれば、指示に背くことは難しいと言います。
施設を辞めたケアマネージャー
「自分たちはそこまで力がないので、経営者を替えることまではできない。
本当に悔しくてたまらなかった。」
自らもケアマネージャーとして働いていた東洋大学の高野龍昭(たかの・たつあき)さんです。
ケアマネージャーが本来のチェック機能を果たすことができる仕組み作りが今、求められていると指摘しています。
東洋大学 高野龍昭准教授
「事業者に雇用されていて、公正さ中立性が保てないところに手を入れなければ、不正請求の構図は断ち切れない。
不正請求をしなくて済むようなケアマネージャーをサポートする仕組み、今、作らなくてはまずい。」
介護保険制度 悪用 不正を防ぐには
阿部
「取材にあたった静岡放送局の松尾記者です。
ケアマネージャーが本来のチェック機能を果たせないような構造ができているということですね。
どうしてこうなってしまったのでしょうか?」
松尾記者
「ケアマネージャーの多くは、その責任を果たそうと真摯に仕事に取り組んでいるんです。
15年前に介護保険制度が導入される際には、『ケアマネージャーを公務員にしよう』という議論もあったんです。
ただ、当時は公務員の削減や民間の参入ということが進められている中で、この導入は進まなかったんです。
また、ケアマネージャーのほうから経営者から独立することで中立性を保とうという人たちもいます。
ただ、収入が不安定なことが多く、なかなかそうした動きは進んでいないというのが現状なんです。」
和久田
「こうした現状を受けて、何か対策はないのでしょうか?」

松尾記者
「外部から複数の専門家の目が入ることで、こうした不正を抑止につなげようという動きはあります。
埼玉県の和光市では、市が主催して月に2回、『地域ケア会議』という会議が行われています。
ここでは、ケアマネージャーが立てたケアプランが適切だったのか、市の担当者に加えて、医師や管理栄養士、それに作業療法士や薬剤師などが専門の立場からそれぞれ指摘をしています。
こうした指摘によって、不必要なサービスがあった場合、それを見抜くことができると言うことなんです。
また、ケアマネージャーが外部の専門家とつながることで、経営者に取り込まれることがなく、困ったときにサポートを得られやすくなるという効果も指摘されています。」
阿部
「そうした取り組みで、本当にうまくいくのでしょうか?」
松尾記者
「国はこの4月、介護保険制度が改正された際に、和光市のような『地域ケア会議』をすべての市町村で実施するように義務づけたんです。
ただ、この実施する内容、どのように実施するのかということについては、これは各市町村の裁量に任されていまして、具体的にどのような効果があるのかということについては不透明なんです。
だからこそ、ケアマネージャーのほうから経営者から独立したときに報酬が保証されるであったり、ケアマネージャーが経営者からまた別のところの機関や組 織、法人で働いて、中立性を担保できるような仕組みを作るなど、そうした介護保険制度そのもののあり方を今、見直す時期に来ているんじゃないかと思いま す。」