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認知症、施設利用は介護放棄ではない

2015.08.22 (土)

「もう家では、介護の限界です」
 あるとき、脳梗塞で通院している70代の義母を持つ女性が外来に来られました。義母には「自分の物を盗まれる」といった妄想があり、怒ったり、暴力をふるったりし、自分の部屋に鍵をかけてしまうとのことでした。
 家族は険悪な雰囲気になってしまい、女性は「自分ががんばって介護しなければ」という思いで献身的に介護されていましたが、精神的なストレスも多く、半ばうつ状態でした。
  そこで、義母本人に物忘れの検査をしたところ、程度は軽いですが、アルツハイマー型認知症の兆候が出ていました。ケアマネジャーさんに連絡し、医療スタッ フや介護スタッフが集まって今後のことを相談した結果、家での介護は限界だろうと判断し、施設の入所を申し込むことになりました。
 家族の中には、「もっと自分が頑張らなければならない」「施設に入れることは介護をあきらめることだ」「かわいそう」という思いを持つ方もありますが、決してそうではありません。
 このような気持ちは“介護破綻”につながり、介護が限界を迎えてしまう可能性があります。介護は一人で抱えこまないで、介護保険などの支援を受けて皆で支えていくことが大切です。
 限界になってから慌てて施設を探すのではなく、早めから施設入所のことも視野に入れておくことです。そういった準備をすることで、逆に介護に余裕ができ、家で穏やかに長く過ごしていただくことができます。
入所後も家族は会いに行って一緒に話をしたり、外出や外泊をしたりして関わることができます。入所してからも家族にできることはたくさんあります。
  先述の70代の女性は、入所当初は「施設に入れられた」と嫌がる面もありましたが、認知症対応型のグループホームということもあり、しばらくすると「先 生、施設はとても居心地がよく、お世話になってよかった」と笑顔で話されました。家族にも精神的な余裕ができて、うつ状態も改善、笑顔が戻って自分の好き な趣味もできるようになりました。
 施設入所というのは「塞翁が馬」です。入所することで不幸になるのではないかという不安があるかもしれませんが、入ってみるとお互いにとって幸せになるかもしれません。認知症であっても、本人や家族全員が人生の最後までその人らしい生活をおくることはできるはずです。
 (橋本市民病院 脳神経外科 医長 大饗(おわい)義仁)